k-spaceってなに?

k-spaceという言葉を聞いたことがない人は少なくないでしょう。

MRIの特徴的な言葉であり、その意味については物理学者とかでない限りは詳しいところまで知る必要がないと考えます。が、MRIを理解する上で重要なポイントだけは知っていてください!

k-spaceとは

MR信号が検出されてからまず、その情報が保管される場所です。

はい!これだけでk-spaceに対する理解は50%達成しました!画面を閉じないでください!あと1つだけ覚えて欲しいことがあります。

k-spaceの特徴

k-spaceの中心がコントラスト、周辺が空間分解能に影響している

意味わからないことを言い出して申し訳ありません。百聞は一見にしかず!こちらをご覧ください。

MR信号を検出して、その情報で埋められたk-spaceをフーリエ変換するとMR画像が出来上がります。※さっきからフーリエ変換って何だよって思った方へ。フルーツジュースがあります。それをフーリエ変換すると材料にバナナ、リンゴ、オレンジ、ピーチが使われていることがわかります。フーリエ変換とは複数の周波数成分で構成されたデータを分離することだと大学の頃教わりました←

では先ほどk-space全体をフーリエ変換してMR画像を完成させましたが、今度はk-spaceの中心のデータだけを用いてフーリエ変換したとすると完成するMR画像は下の通りになります。

真ん中のデータだけしか使ってないのに意外とそれっぽい画像になるんですねー

ところが何だかボケーっとして気の抜けた画像ができていることがわかるでしょうか?

次の画像をご覧ください。今度はk-spaceの端っこのデータのみを使用してMR画像を完成させると下のような画像ができます。

…ん?今度はうっすら元の画像の面影はありますがコントラスト(色の濃淡)がはっきりしない画像が出てきました。でも画像の輪郭を縁取ったようにラインが浮き出ているのがわかりますでしょうか?

つまり何が言いたいかといいますと

k-spaceの中心はコントラスト、辺縁が空間分解能に影響するということです。

これだけ覚えておけばk-spaceについて十分理解していると言ってもいいと私は思います。

そしてこれを理解していないと高速スピンエコー法:FSEgradient echo法:GREについての説明が理解できないため書かせていただきました。抑えるべきポイントは2点だけなのでぜひ覚えちゃってください!

次回、高速スピンエコー法TSEについて解説いたします!

撮影時間短縮 Fast Recovery法

MRIの撮影時間の短縮にはさまざまな方法があります。

その中の1つにFast Recovery法があります。(呼称 GE: Fast Recovery SIEMENS: Restore Philips: DRIVE)

T2強調画像というのはざくっとTR=4000以上必要としましょう。(正確な定義はありませんがとにかく長いTRが必要となります。磁場強度でも異なる。) これはT2強調信号を得る際、プロトンの横磁化成分の回復に長い時間が必要な訳で、TRを短くすると回復が間に合わず十分な信号を得ることができないのです。

(左)TR=4000 (右)TR=700 脳脊髄液の信号強度が違いますね!

そこで90度パルスの前に無理やり水信号を回復させるようなパルスを打ちます。

これによってTRを短い値にしても水の信号強度を高く保つことができ、時短しながら良質なT2強調画像を得ることができます!

同じ撮影時間でここまでちがう!

このFast Recovery法は臨床でめちゃくちゃ活用できます。主に水信号を強くしたい!という時や時短したい!というときです。

MRCPや3DのT2WIとか脊椎のT2WIなどなど、、、

ただ注意点もいくつかありますので、中級を目指す方は意識しましょう!

  • IR法(Inversion Recovery)と併用できない→撮影原理的に併用できないことはお分かりいただけるだろうか。IR法を使う時は信号回復のために十分TRを伸ばす必要がある。
  • あくまで水信号を強制回復させるだけなので腫瘍などの信号がTRの長い条件時のT2WIとは異なる可能性がある→Fast recoveryを使う場面、部位、タイミングはきちんと考える。
  • 最短TRが少し伸びる→シーケンスチャートに-90°という余分なパルスが入るため最短TRが伸びます。よってTRが5000とか6000とか十分長い場合はFast recoveryを使用しない方が時短になります。

とはいえ使わないと身につかないので明日からぜひ使用してみて画像がどう変化するのか見てみてください!

水/脂肪信号相殺法 Dixon法について

脂肪抑制法の1つであるDixon法は比較的新しい部類の撮影法なので古い装置だと使用できないこともあります。

原理は意外と簡単で、水プロトンと脂肪プロトンの位相差を利用して決まったTEで信号を受信し、2つの画像を得る。磁化ベクトルが同じ方向を向いた画像をin phase, 反対の方向を向いた画像をout of phase(またはopposed phase)という。

これら2つの画像を用いて脂肪抑制画像を算出します。

また脂肪抑制画像だけでなく、得られたout of phase画像も臨床によく用いられます。

副腎腺腫の症例。T1強調画像in phaseでは腫瘤は肝と同程度の中間信号を呈しているが、脂肪抑制画像であるout of phaseでは信号が低下しているので脂肪の存在を証明でき、副腎腺腫と診断できる。

異なるTEを用いて脂肪抑制画像を取得するので周波数選択的脂肪抑制画像であるChess法より磁場の不均一に影響されにくいです。

ある程度の広範囲の撮影や肺の近く、手や頚部, 足など複雑な形状の部位(Chess法だと脂肪抑制にムラが生じる場所)でも均一に脂肪抑制をかけることができます。

加えてT2強調画像とT2強調脂肪抑制画像を同時に取得できるので別々に撮影するより時間の短縮ができます。STIRのようにSNRが低下することもありません。ただし、金属の周囲に関しては計算がうまくいかず脂肪抑制が効かない場合があるため、金属の周囲を脂肪抑制したいときはSTIRを使用してください。(造影前に限る)

脂肪抑制方法についてはいくつか種類があり、使い分けがありますが、原理を理解し正しく使いましょう!

MRIの解像度 Matrixについて

CTやMRI、レントゲンなどの画像を撮影する際、写真と同じで画素数というものが必ず決められています。

画像の取得原理の違いからCTやレントゲンのmatrix数は装置で固有(ex.512×512, 1024×1024などスペックによる)であるのに対してMRIは任意のmatrix数に変えることができます。これは放射線を使った画像の分解能は装置に搭載されている放射線検出器のサイズに依存するためです。

一方MRIでは得たい画像によって任意にmatrix数を設定することができます。MRIのmatrixは縦×横のpixel数が必ずしも同じとは限りません。これはMRIの撮影時間が

で表されるからです。MRIのmatrixは位相方向のpixel数×周波数方向のpixel数で表されます。位相数というのは位相方向のpixel数のことです。

図のように位相エンコードと周波数エンコード方向のpixel数が等しい場合はpixelの形が正方形になりますが、臨床においてこのようなMatrixの設定をしている施設はほぼないでしょう。(等方ボクセル:3方向同じボクセルで撮影しないといけない撮影も中にはあります…)

理由としてはとても撮影時間が長くなってしまうからです。

図の(a), (b), (c) 3つの画像のうち撮影時間はいずれも同じです。ここでscan%というのは周波数方向のpixel数に対する位相方向のpixel数となります。(ex.Matrix scan: 512 Scan%: 50のとき周波数方向のpixel数は512×0.5=256となります)

(a), (b), (c) 3つの画像は撮影時間が同じにもかかわらず分解能は(c)が最も高く、続いて(b),(a)の順に分解能は低下していきます。なぜなら3つの画像の位相方向のpixel数はどれも等しいのに周波数方向のpixel数が異なるからです。撮影時間が同じならより高分解能な画像を撮りたいですよね?

実際にMRI装置を触るとわかりますが基本的には全体のMatrixを入力するところがあって、次にその値に対して位相方向のMatrixをどうするか入力する欄があります。

あまり適当なことは言えませんがうちの大学だと周波数方向のpixel数に対して60%~80%で設定することが多いですね。動く高齢の患者さん、じっとできる若い患者さんなど状況に応じてパラメーターを組めるのが理想の技師だと思います。

こんな感じで臨床に特化したMRIの知識を提供していきます。MRIについてもっと知りたい方はまた見に来てください。