高速スピンエコーFSE (Fast Spin echo)について

スピンエコーSEの原理を理解したみなさんに高速スピンエコーについて解説します。ちなみに高速スピンエコーはファーストスピンエコーFSE (Fast Spin echo)とかターボスピンエコーTSE(Turbo spin echo)とか複数の呼び名があります。メーカーによりけり。実際FSEともTSEともいいます。

スピンエコー法SEが90°パルスをうった後180°パルスをうって得られた信号を収集するのに対して高速スピンエコー法FSEは90°パルスをうった後180°パルスを連続してうちまくることでMR信号を収集していきます。つまり180°パルスの数だけ倍速で早く撮影できます180°パルスを10回うてば収集効率は10倍となり、10倍早く撮影できます。※FSE法における180°パルスの回数をエコートレイン数ETL (echo train lenght)とかターボファクターTSE facter(turbo spin echo facter)などと呼びます。メーカーによって異なります。

ここで疑問に思って欲しいことがあります。スピンエコーSEの原理で説明したようにMRIの画像のコントラストはTR (repertition time:繰り返し時間)とTE (echo time:エコー時間)で決定されます。高速スピンエコーにおけるTEってどこでしょう?

TE (echo time:エコー時間)とは90°パルスからMR信号を検出するまでの時間でした。TSEにおいては1つの90°パルスに対して複数のMR信号を取得します。これを説明するためにk-spaceの特徴をおさらいしましょう。k-spaseについて詳しくはこちらをご覧ください。

ここで重要となるk-spaceの特徴とは、画像コントラストはk-spaceの中心部分で決まる!ということです。

つまりたくさんのMR信号が得られるFSEですが、例えばT2強調画像のTEが100 msecだとしたら90°パルスから100 msec後のデータをk-spaceの中心にいれて、それ以外のデータは端っこに使用すればいいのです。

たとえばTEの短いT1強調画像を撮る時には最初のMR信号をk-spaceの中心に充填します。

TEの長いT2強調画像を撮る時にはTEの長いMR信号をk-spaceの中央に充填します。

このように任意のTEを設定し、MR信号をk-spaceの中心に充填すれば希望のコントラストを得ることができます。FSEにおけるTEは正確には実効TEとかequivalent TEなどと呼ばれます。k-spaceの特徴をうまく利用することで高速撮影法が誕生しました!

ここで実際にスピンエコーSEと高速スピンエコーFSEで撮影されたT2強調画像を見比べてみましょう。

実はFSE法は撮影時間が短くなる夢のような撮影技術かと思いきや、メリットだらけでないことも知っていて欲しいです。

FSE法のデメリット

1.SEとFSEではコントラストが異なる!(自由水と脂肪が高信号となる)

難しい話で眠くなる方もいるかと思いますが覚えてください。上の画像のFSE法で皮下脂肪が高信号になっているように180°パルスを短時間にたくさんうつことで自由水と脂肪のコントラストが上がってしまうのです。(詳しくはMT効果やJカップリング効果を調べてください)

実はT2強調画像で脂肪は高信号!は間違いで正しくはFSE法で撮ったT2強調画像で脂肪は高信号!ということです。

ただ臨床でT2強調画像といえば当然と言っていいほどFSEが用いられますので基礎知識として頭の片隅に置いといてください。    

2. 画像にボケが生じる, コントラストが低下する

みなさんスピンエコー法の原理は理解しましたか?スピンエコーでは90°パルスを印加した後、180°パルスを印加してMR信号を得ましたが、これはいい感じのタイミング(TE)で180°パルスを印加した時の話です!TSEのように連続で180°パルスを印加していたら時間の経過とともに得られる信号強度はどんどん低下してしますのです!例えば90°パルスで横に倒されたプロトンは時間経過とともに元に状態に戻ってしまいますし、180°パルスを連続で使用するとだんだんプロトンの位相がズレてきます。このように異なる複数の信号をk-spaceに充填することでボケやコントラストの低下につながります。(エコートレイン数の増加によるボケのことをブラーリング効果、T2フィルター効果などと呼ぶ)

wikipediaより引用

これらはエコートレイン数を多くしすぎない。ということである程度防ぐことができます。またTRの短いT1強調は180°パルスを多くはうてず、TRの長いT2強調ではより多くの180°パルスを使用することができます。実際に使用しているエコートレイン数を紹介するとT1強調画像で2~4回くらい, T2強調像で10~20回ぐらいでしょうか。異論は認めます。施設によっても異なると思います。詳しく知りたい方は日本MRI認定機構の各領域ごとの推奨条件をご覧ください。

検査部位はどこなのか、患者さんは長時間じっとしていられるか、その画像が診断に占める重要性はいかほどか。ベテランの撮影者なら考えながら検査ごと患者ごとにこれらのパラメーターを最適化していきます。

3. 体が熱くなる

MRIを撮影されたことある方はわかると思いますが、撮影されている場所がわかるぐらい熱くなります。実は90°パルスとか180°パルスとかに用いられるRFパルスというのは電子レンジで用いられるパルスと同等のもので、用途は違えどどうしても発熱してしまうのです。そしてパルスを連続で使用するFSEではその効果は顕著になります。この発生する熱のことを比吸収率SAR:specific absorption rateといいます。

ただMRIの装置にはこのSARを制御する機構が備わっており、一定以上のSARに達しないようなシステムとなっているため無理なパラメーターでは撮影できないようになっておりますのでご安心ください。一般に1.5Tの装置より3Tの装置のほうがSARが高くなるため機能を制限して撮影しているのが現状です。

長々と解説いたしましたが覚えておくポイントをまとめると

  • FSEは撮影時間の短縮を実現した画期的な技術である!
  • 得たい画像コントラストになるようk-spaceの埋め方を変えている
  • コントラストはTSEとSEでは異なる
  • エコートレイン数を増やせば撮影は早くなるボケも増えるため,いいあんばいで!
  • 体が熱くなりやすい

その特性を理解した上で撮影するとあたらしい世界が見えてくると思います。カチャカチャ設定をいじっているあの上司が何を考えているのか。少しずつ学んで一緒に成長していきましょう!

スピンエコーSE(Spine Echo)について

スピンエコーSEについて解説します。

こういったMRIの原理的な話は見ると眠くなる方が多い話題だと思いますのでできるだけ図を使ってわかりやすく説明していきます!

スピンエコーSEとはMRIの最も基本的な撮影法で用いるパルスは2種類!90°パルス(励起パルス)180°パルス(飽和パルス)です。

詳しい原理を説明しても面白くないのでザクっと説明します。90°パルス(スライス選択RFパルス)を印加後に180°パルスを印加するとMR信号が出てきます。これがスピンエコー法の原理です。

wikipediaより引用

これの繰り返しによってMRIの画像が出来上がります。あとスピンエコーを理解する上でTRTEというワードもおさえなければなりません。

TR (repertition time:繰り返し時間)というのが前の90°パルスから次の90°パルスが印加されるまでの時間。TE (echo time:エコー時間)というのが90°パルスからMR信号を検出するまでの時間となります。なぜこれらが大事かというと、、、TRとTEの組み合わせでT1強調画像とかT2強調画像とか得られる画像のコントラストが決定されるからです!

WIというのはweighted image(強調画像)、PDというのはproton density(プロトン密度)を指す

ここまで読んだ方はスピンエコーについて理解してきたのではないでしょうか?

しかし残念ながら今の時代に臨床ではスピンエコーなんて使いません。なぜかというと撮影時間が長すぎるからです!でも大丈夫です。現在スピンエコーに代わって臨床で活躍している高速スピンエコー。スピンエコーを理解したみなさんなら簡単に理解できます!

たとえば256×256のマトリックスのT2強調画像を1枚とりましょう。T2のTRは長いです。大体4000 msec(4秒)として計算すると…

なんと1枚の画像を撮影するのに17分もかかってしまうのです。こんなの使えるわけがない。

そこで開発された高速スピンエコー法

高速スピンエコーの解説はこちらから!

out of phase画像

dixon法の説明でも出てきたout of phase画像ですが臨床でどのように使用されるのか

知っていて損はありません。

そもそもout of phaseとは水プロトンと脂肪プロトンの磁化ベクトルが逆位相のときに取得される画像なので信号値は水プロトンと脂肪プロトンの信号の差分の絶対値となります(信号が負の値となることはないので)。つまり1つのピクセルに水と脂肪が同じ量あれば信号は0となり、水か脂肪のどちらかが多いと高信号になりますちなみに息止め撮影をする臓器のout of phase画像はGREグラジエントエコー法を用いて撮影します。

主な用途は微量な脂肪の鋭敏な検出(高分化型肝細胞癌、脂肪肝、副腎腺腫など)および水脂肪境界部の低信号帯を利用して腫瘍の原発臓器や浸潤の有無の判断に用いられます

脂肪肝の症例 正常だと脂肪成分の少ない肝実質に脂肪が沈着すると信号が低下する。
副腎腺腫の症例 正常だと脂肪成分の少ない副腎に脂肪が沈着すると信号が低下する。

知らなくても撮影には困らないですが、知っていると検査の質も向上しますので一緒に学んでいきましょう!