水/脂肪信号相殺法 Dixon法について

脂肪抑制法の1つであるDixon法は比較的新しい部類の撮影法なので古い装置だと使用できないこともあります。

原理は意外と簡単で、水プロトンと脂肪プロトンの位相差を利用して決まったTEで信号を受信し、2つの画像を得る。磁化ベクトルが同じ方向を向いた画像をin phase, 反対の方向を向いた画像をout of phase(またはopposed phase)という。

これら2つの画像を用いて脂肪抑制画像を算出します。

また脂肪抑制画像だけでなく、得られたout of phase画像も臨床によく用いられます。

副腎腺腫の症例。T1強調画像in phaseでは腫瘤は肝と同程度の中間信号を呈しているが、脂肪抑制画像であるout of phaseでは信号が低下しているので脂肪の存在を証明でき、副腎腺腫と診断できる。

異なるTEを用いて脂肪抑制画像を取得するので周波数選択的脂肪抑制画像であるChess法より磁場の不均一に影響されにくいです。

ある程度の広範囲の撮影や肺の近く、手や頚部, 足など複雑な形状の部位(Chess法だと脂肪抑制にムラが生じる場所)でも均一に脂肪抑制をかけることができます。

加えてT2強調画像とT2強調脂肪抑制画像を同時に取得できるので別々に撮影するより時間の短縮ができます。STIRのようにSNRが低下することもありません。ただし、金属の周囲に関しては計算がうまくいかず脂肪抑制が効かない場合があるため、金属の周囲を脂肪抑制したいときはSTIRを使用してください。(造影前に限る)

脂肪抑制方法についてはいくつか種類があり、使い分けがありますが、原理を理解し正しく使いましょう!

MRIのスライス厚とSNRの話

MRIを撮影する際のスライスの厚さ(スライス厚)は装置のスペックにより設定できる最小の厚さが決まっています。

それは最大傾斜磁場強度によって変化します。

薄いスライスの方が見たいものを細かく見れるからとにかく薄く撮ればいいんじゃない?と、思う方もいらっしゃるかと思いますがMRIにおいて薄すぎるスライスというものはそれなりのデメリットが生じます。 それはSNRが大きく低下するということです。

これはCTにも共通する話ですがスライスの厚さというのは1ボクセルのうちのZ軸方向の大きさを表します。縦だろうが横だろうが高さだろうがボクセルサイズが小さくなれば信号に対するノイズの割合が増えてSNRの低下した画像となります。それを補うためには例えばCTなら線量を増やせばいいのですがMRIだとそう簡単にもいきません。

薄いスライスがいい!さてスライス厚を半分にするだけで…

前と同じSNRを得るためには4倍のNEX: 加算回数(撮影時間は4倍になります)にしたり、NEXを少し上げつつMatrixを下げる(分解能を下げる)など、何かを犠牲にしてSNRを担保しなければなりません。

これらは撮影時間の延長に繋がりますので患者さんにより多くの負担を強いることになります。

5mmの大きさの病変を2mm〜3mmのスライスで評価するのは理解できますが20〜30mmの大きさの病変なら5mmとか6mmなどの厚いスライスでも十分評価できます。ターゲットを見極め、無駄な条件で設定せずに必要な情報はしっかり得ながら最短時間で検査することこそMRIの撮影者に求められるスキルだと思います。